柔道観るなら「組み手争い」を見る!(その1)

柔道観るなら「組み手争い」を見る!(その1)

YouTubeチャンネルにアップロードした「柔道観るなら、組み手争いを見る!」①から③の完全版「柔道選手の”あの”動きは何?」です。

The version with English subtitles will be available soon.

柔道の試合を観ていると、こんなシーンをよく見かけると思います。選手たちは何を狙ってこのような動きをしているのでしょうか?

今回はウルフ・アロン選手をオリンピック金メダリストに育てた、了徳寺大学職員柔道部の山田利彦部長兼総監督に伺いました。

柔道編①「組み手争いって、何?」

柔道を見てる人はよく組み手争い、なぜお互い組み合わないのかと、見てる人にはわからないことも多いと思うのですけれども、まず柔道選手は自分の組み手になったら(相手を)投げる力はあります。

ただ、それがわかっているのでお互いに相手のいい組み手にさせない、そしてまた自分のいい組み手になりたいというところでの争いが組み手争いになります。はい、ではそこのところをやってもらえればと思います。

今回はお互い、白の金丸先生が右組み、長谷川先生が左組みなんですけれどもここ、この場合お互いに引き手がなかなか取りづらいけれども、 ここでいいとこ取ったので…この一瞬で金丸先生が自分の形、引き手が取れましたのでそこで技に入ったという形になります。

もう一度、今度お願いします。

ここを取られたら嫌だったら切ったりするということになります。今度は長谷川先生の方が自分の形になりましたので、そういうところで、一瞬のいいところ組めたので技に入ります。こういった形でいかに自分のいい形になるかというところが組手争いになります。

Q:「いい組み手」というのは、どういう状態をいうのでしょうか?

はい、それが柔道スタイルにもよるのですけれども、例えば金丸先生は背負い投げ、担ぎ技が非常に得意なんですね。であれば、この状態ですと下から釣り手、この場合ですとケンカ四つなんですけれども釣り手を下から持っている方が背負い投げがかけやすいのですね。

そこでこの右手を折りたたまないと背負い投げというのはできませんので白の右手が中に、背負い投げをかける場合は折りたたみますので、これ、上にあるよりは下にあったほうがやりやすいですね、

上からもやれる技術はあるのですけども、一般的には下の方がやりやすい。だからこれを下から持ちたい、でもそれがわかっているのであれば、青の長谷川先生の方はその釣り手を自由にさせないために、下から持ったり、そしてまた下から持たれても、上から今度、金丸先生が下から持っているとしても、上からしっかり制して、この手が自由にならないようにするっていうような、ここに攻防が入ります。

でこうした中でも、お互いそこの攻防を、上からなのか下からなのか、相手の特徴を事前にリサーチしておいて、今度引き手を、今度ケンカ四つの場合は引き手がなかなか、体が開きますので、今の形でこれがお互いの基本の形、右足を出して、金丸先生は右組みなので右足を出した形、長谷川先生は左組みなので左足を出した形になるんです。

けれどもこの形からだと…引き手ですね、これが少し距離ができるのですね。ですので、ここのところをいかに自分の形で取れるかどうかというところの争いで、またここを組む、組まない、いいところ持てなかったら切ったり、持たれたらまた外したり、で、今これだけいい形になった場合ですと金丸先生十分な形なんです。

ここだと技に入りやすい、入れる瞬間ができるので、でもこの瞬間をもう相手の方もわかってますので嫌だったら切る、これをもう一回なんとか、でまたゼロに戻す、というようなところなんですね。ここが組み手争いの、一般的に行われている。

一般の方も見ていると「なんで組まないんだろう」「何でがちゃがちゃしてるんだ、組み合えばいいじゃないか」というところに繋がると思うんですけども、こうしたところが普段の選手の試合のところで行われていることなんですね。

Q:釣り手にはどのような役割や効果があるのですか?

はい。釣り手の方は一般的には、相手を少し押したりですね、ここで相手が今度、ここの間合いをお互いの間合いを自分の間合いに保つために、今この状態ですと、金丸先生としてはこの距離をある程度、自分と相手の間の間合いを取るために、これを今みたいに縮めたり、それから今度、海外の選手などに多いんですけれども、相手が奥の方を叩いてですね、持って、グって寄せて、間合いを詰めようとします。

こういったところに対して少し上げながら、なんとか間合いを作って、で、間合いがあるということはそこに一瞬で潜り込んだりできるわけですね、例えば持った時にこの中に入る。ただこの場合、グって寄せられてしまうと、金丸先生のような背負い投げをかける選手にとっては、非常にここからなかなか入りづらい、なのでここで釣り手。

なので釣り手、一般的に言わせてもらいますと寄せるのか、また間合いを取るのかというところに一番使われる。

Q:相手との間合い(距離)をコントロールするということですか?

もちろん引き手でもコントロールするのですけれども、釣り手のメインの、主要な目的としてはやはり相手との間合い、そして押したり引いたり、それからまた、上下に振ったりですね。相手を上下させたりするために使ったり、という形になります。

Q:先ほどご説明されていた「奥を叩く」という持ち方にはどのような効果があるのですか?

そうですね、例えば今、身長同じくらいの対戦なんですけども、海外の選手、長身の選手とかが多い場合に、その長身の選手が下から持とうとするのもなかなか難しい、そして長身選手ですと相手をどちらかというと捕まえて間合いを詰める形をとりたいというところになりますので、そうした場合には深いところですね、奥襟だったり背中だったりですね、持って寄せてくる…こういう形で、そこから技をかける方がやりやすいんですよね。

Q:奥襟を持つことで相手が前傾姿勢になって重心が動き、直立しにくくなるということですか?

はい、そちらにも繋がりますし、相手が技をかけづらい状況にさせられてしまう。

Q:相手の技を封じる効果もあるわけですか?

封じる形ですね。こういう形ですと、今、青の長谷川先生の方が入れないですね、なかなか体を回そうとしても回れない、という形になってしまいますので。海外の選手に非常に多い形で、もちろん日本の選手にもいるんですけれども、こういう状況になってしまうとなかなか入れないので、そこのために今言った釣り手とかですね、他の手とか、引き手の方も使うんですけども、メインのそこを、いかに距離をとったりするかところが大きな役目にもなりますね、間合いの取り合いの中で。

Q:ということは、釣り手は自分の技がかけやすく、相手が技をかけにくい間合いを作るのが役割ということですか?

はい、技をかけるときにいろんな違う使い方もちろんあるんですけれども、今の組み手争いというところになると主なやり方としてはそういったところになると思います

Q:では次に引き手についてご説明いただけますか?

はい、今この二人、最初にやっていたのはケンカ四つという形で、例えば相四つでもですね、相四つで右対右の場合でもこうした場合に。例えばこれもですね、青の長谷川先生の方が奥襟を例えば叩きたい場合に、これも結局グッとこうやって寄せられてしまうと金丸先生得意技の背負い投げ、首が回らないんですね。

ですのでここを、多いのが、金丸先生としては少し落として、これだと回るんですよね。これだと回りますのでこういう形で、でも青の選手がもし奥襟を叩きたい選手だと、ここのやり合いになります。だからお互いに、そこの位置がどこにあるか、この釣り手、お互いの引き手っていうところで…これ今正対してます、相四つですね、お互い右足を出しての右対右の形にはなるんですけれども、この形で相手の金丸先生としたら落としたい、長谷川先生としては上げたい。で、ここで争いがまた起こるんですね。

Q:選手の組み方を見ていて「前に(後ろに)崩したい」とか「横に回したい」などの意図を読み取ることはできるのですか?

そうですね…やはり回したい云々というよりはどちらかというと、こう寄せたいのか、はい、それかもう少し今言ったように絞って間合いを取りたいのかという形はもう見た瞬間に相手が…っていうところにはなります。

Q:例えばどのような例が挙げられますか?

その場合ですと、長谷川先生の方が奥を叩きたい場合であれば例えば左手を襟から持ってですね、引き手をそっちを使いながら取りたい。

Q:これは間合いを近づけたいのですね?

近づけたい、で、相手を落として例えば金丸先生のような背負い投げが非常に得意な選手に対して、この状態ですと金丸先生は技がかけづらいですね。でここで相手が起こそうとなんとかする前に、今度は長谷川先生としては、例えば大外刈りとかですね。技をかけている形になります。

Q:相手が前に倒されているのを嫌がって、起きあがろうとする動きを利用して大外刈りをかけるということですね?

はい。そういったところにもつながっています。そこで今度は金丸先生としては同じようにそうされては嫌なので、この持った時にこっちの手をいかにこう落とすか、こうされてしまうと長谷川先生としては上げる、なので上げようとする瞬間に技をかけたり、金丸先生としてはできるわけですね。ここにまた争いが、組み手のお互いがどう自分の形を取るかというところですね。

本当に最後のトップの選手のところ、オリンピックなり国内の最終選考会なりですね、国内でもトップのところだと、お互いにもう技の、どういう技を持っているかというのは分かっていますので、そうしたところで相手の組手に対して、技に対してどういう組手をしようかという準備をしています。

柔道編②「相四つの組み手争いとは?」

柔道には右組み、左組みとあります。それでまずは相四つですね、右対右、あるいは左対左の組み合わせですね。そこのところ説明させていただきます。まずは右対右の状態、これはお互いに引き手と釣り手が組み合える組み合わせになります。

右足を一歩出した形でですね、左、この場合は右対右なので左手の引き手をお互いに持てますし、右手の釣り手もお互いに持てる組手になります。で、これは正対しますのでこのまま普通にやり合えるんですけれども、ここが、例えば青の長谷川先生が奥襟を叩きたい。で、ここで寄せたいのか、こういう形、で、こういう形に対して金丸先生の方はこうされてしまうと技がかけづらいですので、寄せられないために引き手を絞って、で、こうなってしまうと今度は長谷川先生も技をかけづらい形…っていうところでの組み手争いになります。

で、この場合相四つですと、でも、通常そのままやり合う、戦い合う場合は正対しますので、この時に体格差というものが非常に大きく影響することになります。オリンピックや世界選手権、もちろん国内の体重別大会等は、といっても体重の制限がありますのでそれほど体重が違うってことはほぼないんですけれども日本なんかでは無差別の大会、あと団体戦ですね、日本の場合は団体戦は無差別で行われることが多いんですけれども、そうした場合に非常に体格差が出る試合も行われたりします。

そうしたときにやはり相四つの場合ですと、通常であれば体格が大きい人の方が間合いを詰めやすいんですね、正対してこのままお互い組みやすい状態にありますので…っていうところが生まれてしまいます。

Q:「間合いが詰まった」形とは具体的にどのような形でしょうか?

なので先ほど長谷川先生がやったようにこういった形で…

Q:これは青(長谷川選手)が「いい体格」という想定ですね?

はい、(そう)なります。なので、もし私がやるのであれば、私と金丸先生であればそういう形で…相四つの場合ですと、お互いに普通には組みやすい状況になりますので、そこのところで一番よく行われるのが、お互い引き手の絞り合いですね。通常、この二人の体型ですと、お互いに同じくらいのサイズになるのですが、こうした時に、お互いに相手の釣り手を自由にさせたくない、そして相手の釣り手を絞りたいというところで、ここでこういった形で絞り合いが起きている、ここが相四つの組み手争いでは非常に多い、よく見られるところになります。

Q:選手にとっては、体の重心に近いところにある釣り手を取られることを避けたいという感覚なのでしょうか?

そうですね、釣り手を自由にさせてしまうと…。また、引き手はだいたい、お互いに持ち合いやすいので、そこのところでお互いに釣り手の高さをですね、位置をどうコントロールするかというところが、特に軽量級なんかでは、こういった形が多く見られます。

柔道編③「ケンカ四つの組み手争いとは?」

今度はケンカ四つでやってみましょう。ケンカ四つの場合、今度は長谷川先生が左、金丸先生が右ですと先ほど言ったように、左組みの選手は左足を一歩出します。右組みの選手は右足を一歩を出すという形で斜に構える形になります。で、こうしたときに何が起こるかというと今釣り手ですね、相四つのときはお互いにまっすぐ持ったんですけども、釣り手を今度上から持つのか、下から持つのか。こうなるのか、これをどちらがお互い望んでいるのかで、ここで下から持ち合う…お互い下から持ち合ったらここで巻き返し合いが生まれます。

で、ただ引き手が今度少し距離があるんです、見ていただいてわかるように、ですので釣り手はお互い組み合ってやりやすいんですけども、引き手がここでお互いにいいところの持ち合いで、ここが離し合いなら離していかに自分がいいところを持つかっていうところで組み手争いが、一番ケンカ四つでよく見られる形になります。

なので、まず釣り手をお互いに最初にどっちから、上からいくのか、下からいくのか、これは持っている技によっても違うんですけれどもこの状態ですと金丸先生は担ぎたいので、できれば多分下から持ちたいという形になります。

Q:釣り手で「相手の上から(下から)持つか」などによって、相手の釣り手に圧力をかけたり、動きを封じたりするのですね?

はい。

Q:相四つとは異なり、ケンカ四つの場合は釣り手を先に取るのは、なぜですか?

この場合ですと、距離がですね、見てもらうとわかると思いますが、どっちが近いかというと、お互い釣り手の方が相手に近いんです。

Q:距離の関係で、釣り手の方が取りやすいのですね?

取りやすい。で、引き手からっていうのは一歩出いかなきゃいけないんですね。そういった時に、出て行った時にここを取りに行ったとしても、今度は相手もそれに対応して上からガブっと持たれたりという形も十分ありますので、釣り手が起きてないと、もうそこは寄せられてしまう状況になってしまいます。ここで金丸先生が取りに行った時に釣り手が一本ないと、ここにただ釣り手があれば、その前に金丸先生が釣り手を持っていて取りに行ったら、相手が寄せてこようとしても、今のような形で釣り手でブロックできるんですね。

というのが一般的に、もちろん引き手から取る戦法もあるんですけれども、一般的に見られるのはこういう形になりますので、まずはお互いに釣り手を作ってから引き手を取るというのが柔道のケンカ四つの場合ですとセオリーになります。

先ほどの襟を持ったりそれから奥襟を持ったりという他に、よく海外の選手、まぁ日本の選手も最近やるんですが、海外の選手に多く見られるのが最も間合いを詰める形で背中を持ってきます。これで、今金丸先生が取っているんですけれども長谷川先生がもし嫌だとしたらもっと前襟の、ここを持って、それをいかに間合いを取るか。

Q:ということは、背中を掴むのは釣り手の代わりのような意味になりますか?

そうですね、釣り手で、奥襟よりももっと近くなりますので海外の選手は非常に力も強いですから、そこで間合いを、ガブっとこう背中を持ってここで詰めてしまって、相手がそこに対して何かしようとした時に例えば後ろの技を合わせていったりですね、グッと起きようとしているところにこういう形でというようなところが攻防の中でよく見られるところになります。

Q:今の場合は青が起きあがろうとするのを利用して、白が後ろに投げようとしているわけですね?

はい。間合いが近いので技は入った後っていうのが非常に伝わりやすいんですよね。

やはり間合い、間合いとよく言うんですけどそこの相手との距離を、距離感をいかに縮めて、自分の力が強かったら縮めてしまって、より伝わる形にしたい。一般的な日本選手に多いのは、できればそうさせたくない、パワー対パワーで行くと海外選手の方が、非常に強い選手が一般的には多いですので、そこのところで手を使いながらいかに間合いをとって、そこの隙間の中に、いかに隙間を作った後に入っていくかとかその一瞬のところに技の掛け合いというところが生まれてくることになります。

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