元広告会社勤務、東京2020大会では主要競技会場の運営責任者も経験した、無類のスポーツ好きである「所長」が、今までに培った人脈をフルに活かして調査しています。
A sports lover "Manager," who formerly worked for an advertising company and was in charge of major venue operations for the Tokyo 2020 Games, fully utilizes his personal connections.
馬術観るなら「人馬の連携」を見る!(その2)
YouTubeチャンネルにアップロードした「馬術観るなら、人馬の連携を見る!」②ー1から5の統合版「馬のウェルフェア」です。
馬術編①では、馬術の基礎知識について学びました。
今回もアトランタ(1996年)とシドニー(2000年)のオリンピックに馬術の日本代表として出場され、またリオデジャネイロ(2016年)と東京(2021年)のオリンピックでは代表監督を務められた、八王子乗馬倶楽部の細野茂之倶楽部長に馬術で重要な馬のウェルフェアについて伺いました。
ぜひ馬術をご覧になる際にご活用ください。
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パート②-1 馬のウェルフェアの重要性
国際馬術連盟のルールブックでもそうですし、日本馬術連盟のルールブックでも、一番最初に「馬のウェルフェア(welfare)」馬の福祉ということが1ページ目に書かれています。他のスポーツでなかなかそういうことが書いてあるのは(ない)。「道具を大切にしましょう」って、1ページ目に書いてあるのはないと思いますけど。
馬は道具ではなくてやはり生き物ですから、馬を労って、何事よりも馬の健康、馬のウェルフェアを最優先に考えるというようなことを宣言として書いてあります。ライダーたちはそれ(=馬のウェルフェア)を(大切にする)。またライダーたちだけではなくて、馬に関わる全ての人々がそういうこと(に)非常に重きを置いて、このスポーツに取り組んでいるということです。
Q:馬のウェルフェアを確保するために何か馬術独特の取り組みなどがあるのでしょうか?
馬術独特というよりも、やはり(馬は)生き物ですから、大会の時だけ(ケアをする)という訳ではありません。もう1年365日もう片時もやはり馬のケアだとか、馬のことを考えない日はないというトップの選手。また馬に携わる者は日頃の日常生活からやはり(馬の)病気だとか怪我に注意したりですとか、当然あとは餌だとか、飼養管理ですね。(さらに)環境の問題ですとか。
そういうこと(を)全て通して、全てに注力しながら(馬のケアを)やることで、実際に競技会の時に良いパフォーマンス、高いパフォーマンスを発揮するということが(できる)。もう日頃から(馬のケアを)やっていなければ当然できないことですので。そういう意味では、そういう(馬を大切にするという)考えを常日頃から持っているということが大切ですね。
Q:そうするとライダーは日常的に馬との関係を構築しているということになる訳ですね?
そうですね。まあ貸与馬競技といってくじ引きで(決まった馬に)乗るっていうような、そういう競技もあることはあるんですけれども、基本的にはライダーとその馬というのはコンビネーションで、そのライダーが(馬を)所有していたりですとか、その(ライダーが所属する)チームが所有している(馬)、また大学の馬術部が所有している馬に、日頃から練習してその練習で息の合った者同士で競技会に臨むというのが一般的です。
Q:いつも同じ馬に乗るということはその馬と長くコミュニケーションを取って愛情を注ぐことが関係構築に重要な訳ですね?
そうですね。本当に人馬一体が境地ですから。そういう意味では日頃から(馬と)仲良くして、馬と意思疎通をしっかり取れるということが、競技で上位を取るためには必須ではあると思いますね。
Q:動物との競技ですから馬の体調によってライダーも扶助の出し方などを変えることはあるのですか?
そうですね。もちろんそうですね。やはり第1日目と第2日目ではやはり(馬の)疲労度合が違ったりとか、そういうことも考えなきゃいけないし。その日の馬の緊張度合ですとか、リラックスしているかどうかとか。そういうことも馬に対する合図の出し方に影響もしてきますし。
本当に人間だけ調子良くてもダメですし、逆に馬だけ調子良くてもダメなんで。人と馬の両方のバイオリズムがピッタリ合って、初めていいパフォーマンスができるんじゃないかと思います。
パート②-2 馬とライダー
Q:トップレベルでは馬とライダーはいつも同じ組合せで競技に参加するのですか?
そうですね、はい。
日頃練習している、日頃トレーニングしている馬と一緒に競技会に出るのが通例です。
Q:トップレベルのライダーだと何頭もの馬と並行してトレーニングをするものなのですか?
そうですね、はい。やはりトップ選手だと1日にもうトレーニングもまあ少なくても3頭4頭、まあ多い選手だったら10頭くらい以上を毎日トレーニングしたりしますので。そういう馬たちとやっぱり絶えずコミュニケーションを取っていて。
で競技会も、海外、本場に行きますともう毎週のように競技会がありますから、取っ替え引っ替えじゃあないですけれども、今週はこの馬たちと競技して、来週はこの馬たちと競技してみたいな感じで、絶えずたくさんの馬と一緒に競技をしている。その中でやはり一番調子のいい馬ですとか、一番成績を挙げている馬がその国の代表になったりだとか、その選手の代表馬として、オリンピックだとか世界選手権(その他の)大きな大会に出場していくというのが流れですね。
Q:馬を複数用意するのは疲労のコントロールが主要因なのですか?
もちろん(馬の)疲労のことはありますので(馬の出場)間隔を空けるということは大切なことなので、この馬が調子いいからといってどんどんどんどん使う訳ではないですし。
あとやはりその(馬の)適性。当然その競技場との適性だとか、その賞、競技(会)のレベルだとかに合わせて馬を取り替えながら、(馬に)合う適正な競技会にチョイスしてエントリーするというようなことは選手はみんなしています。

Q:そうすると馬の特性と競技会の特徴によって同じ馬を連続で起用することもあるのですか?
うんまあただ毎週(競技会に参加する)というのはなかなか馬にとってはハードなので、やはり競技会(に参加するのは)まあ、少なくとも2週3週空けて(同じ馬を)使うのが(通常の)ローテーションですね。うん。
Q:例えばパリの日本代表「初老ジャパン」の場合、何頭くらいをトレーニングをしていたのですか?
まあ(選手)1人当たり多分(馬)4頭5頭くらいを乗ってトレーニングをしていたので、実際に競技場に持っていってるのは4頭ですけど。うん。(チームで)持っている馬を全部持っていく訳にはいかないので、(競技会場に)持っていったのは4頭ですけど、大体まあ15頭から20頭の馬でトレーニングをしていました。
パート②-3 馬を世話するチーム
Q:馬のウェルフェアを守るために、どのような人が関わっているのですか?
そうですね、まあ特にオリンピック(のような大きな競技会)なんかになりますと、監督コーチだけでなく、獣医師(も帯同する)、チーム獣医師ですね。あと装蹄師といって馬の爪、蹄だとか蹄鉄の管理をする者(もいる)。それにそれ以外にもマッサージの、マッサージ師ですとか。
あと日頃から馬を面倒見ているグルームと呼ばれる仕事があるのですけれども、基本的にライダーが全て面倒見るだけではなくて。やはりF1じゃないですけれどもライダー以外にメカニックとして、日頃から馬に携わるのが馬術の場合にはグルームと言うのですけれども、グルームが馬の健康管理をやったりしますので。そういうもう本当に「ワンチーム」で(競技会に)臨むというのが基本ですね。
Q:そうすると馬の最も近くで様子を見ているのはグルームですか?
そうですねグルームが一番普段の馬のお世話係みたいなものですね、はい。
Q:そのようなケアは競技会の最中も行われる訳ですね?
そうですね、競技(会の最)中であっても、やはりそうやって、日頃と同じような(馬の)ケアをしながら馬がベストパフォーマンスをできるように。また周りのスタッフがしっかり動けることで、選手は(馬に)乗っている時のことに全精力を集中できる。それが(できるのが)いいチームで良い結果に結びつくんじゃないかと思います。
Q:そうするとグルームは会場に常駐しているのですか?
そうですね、基本的には厩舎のなるべく馬のそばに大会主催者側が(グルームの)宿泊所を用意したりですとかして、馬に夜何かあってもすぐ駆けつけられるような、そんな状態で(競技会中も馬を)管理しています。
Q:24時間体制ですか?
そうですね。基本的には24時間体制で(馬を管理する)。まあ余程何事もなければ馬も静かに休みたいですから、あまり(グルームが馬に)手を出すことはないですけれども、まあ夜中に馬のケアをするなんてこともない訳ではないと思いますね。

Q:サポートチームの方々はどういうポイントをケアするのですか?
いやまあそれはもう本当に人(と同じ)。(馬も人の)アスリートと一緒ですから、筋肉の(傷害)もありますし、骨もそうですし、もう(馬体)全体的な運動器系のこともありますし。
あとやはり馬っていうのは非常に繊細な動物ですので、人で言ったらお腹を壊してしまうだとか。神経質でやはり環境が変わったりすると、それを影響を受けてしまうなんてこともありますから、消化器系だとかのトラブルなんていうのも遠征時には起きることもありますね。
ですからもう総体的に(馬の)全てを面倒見ているようなのがまあグルームだったりとかまあチーム獣医師だったりですとか、もちろん選手も気遣いをしています。
馬の運搬
Q:ライダーと馬がセットだとすると運搬も大変そうですね?
そうですね。競技会に行くには国際大会なんかでは飛行機を使ったりですとか。馬を輸送する飛行機を使ったり。特に日本は島国ですから、海外の良馬が馬術馬が入ってくる時は飛行機で入ってきます。また日本から(海外へ)遠征に行くなんてのも飛行機で行ったりします。
あと(競技会場が)大陸(で地続き)ですと主に(馬の運搬方法)はやはりトラックですね。(馬は)馬運車と呼ばれる馬専用のトラックに乗っていきますけど、やはり馬もそれこそ輸送のストレスがかかったりしないように、何時間かおきに休んだりですとか、まあステーブリングと言って何泊か途中中継地点で泊まって、泊まりながら大会の会場まで行くというようなこともやってます。
Q:運搬中馬はずっと立ったままですか?
そうです。馬は基本的には立っていますから、飛行時間中は立ってます。
Q:そうすると長距離を運搬しなければならない時に馬のウェルフェアを保つためにどのような工夫をするのですか?
まあ短い距離だったらあれなんですけれども、ヨーロッパから日本(の運搬)なんかだと途中経由(地)が入ったりはしますね。
パート②-4 ライダーの経験値
Q:競技会を拝見していると障害にぶつかりそうになったり直前で馬が拒止したりすると非常に怪我のリスクが高そうに感じましたが?
実際に障害に(馬を)ぶつけてしまってケガをするっていうのはあまりないです。というのは馬自身もやはり動物で危険を回避するということは馬もします。ですから危ないヒヤっとするような時は足を高く上げたりだとか。馬もケガをしたくないですから、そういう意味では馬自体が自分を守る。
人と馬と両方がそういうやはり防御反応みたいなものを持っているので、そうそうケガをすることっていうのはないですけど、やはり疲労がたたって(馬が)故障してしまったりだとか。そういうことはあるとは思いますね。
だからそういうのをやはり未然に、良いライダーだったらやはりそういうのを未然に防ぐために、やはり馬のことをよく気遣ってやったりだとか。そういう簡単な獣医的な知識もライダーとしては兼ね備えているというようなことは必要だと思います。
Q:ライダーの扶助の巧拙が馬のウェルフェアに影響を与えることはあるのでしょうか?
そうですね。やはりライダーの指示っていうのは非常に大切ですし、その指示が的確でない場合にはミスをしてケガをしてしまったりなんてこともない訳ではないですね。
Q:ライダーが難しい扶助を出したとしても馬の方が拒止することもあるのですね?
それもありますね、多分。そういうこともありますね。馬の気持ちがしっかり汲み取れないライダーの合図だと、やはり馬の方もそれはしたくないよというような反応、判断することもありますね。
Q:逆にまだ稚拙なレベルでしか扶助を出せないライダーにはレベルの高い競技会や難しい馬への騎乗を止めることもあるのですか?
まあもちろんそうですね。そういうレベルに達していないでその競技、レベル以上の競技に出たりすればやはり当然成績も良くないですし。まあ成績が良くないだけではなくて(馬が)ケガをする可能性だとかも出てきますから、指導者としてはそれは当然勧めないし、それは馬のウェルフェアにとってもやってはいけないことですから。
Q:例えば細野さんのように経験を積んだライダーでも初めて騎乗した馬のコントロールは難しいのですか?
そうですね。やはり、それはやっぱり経験で、馬との付き合っている時間で良くなっていくっていうのはありますので。最初に、最初のフィーリングで、あれこれはちょっと違うなっていうのは当然感じることはあります。
Q:やはり時間が必要ですか?
そうですね。本当に人と人(との関係構築)みたいな感じで、初対面であればお互い探り合いじゃないですけど、お互いこの人はどうなのかなって思うのと一緒で、私たちも初めての馬は、この馬はどういう反応をするのかな。

どういう性格の馬なのかな。そういうのを一つ一つ紐解いていくような感じで。やはりだんだんだんだんその馬のことがわかっていったりだとかすれば良い合図が出せるようになったりだとか、良い成績が出せるように。それはいきなり。そりゃビギナーズラックみたいなこともたまにはあるでしょうけれども、基本的にはやはりよく深く馬のことを知ることが、競技としての成功に大切だと思いますね。
Q:経験を積んだライダーには馬をコントロールする引き出しが多いということができそうですね?
そうですね。おっしゃる通り本当に引き出しが増えていくのがやっぱりベテランの選手だと思います。ですから私たちが思うに、経験のない選手はなるべく経験豊富な馬に乗って、(経験が)豊富な馬からいろんなことを教えてもらう。そして経験豊富なライダーは逆に若い馬、経験が未熟な馬に少しずつ教えていってあげる、というようなことが馬術では通例になっています。
そういう意味では大学生、特にインカレなんかだと、大学から馬を始めた選手なんかもいます。そういう選手たちはやはりまだまだ馬のことがわからなかったりする。そうすると少し老練というか、非常に全てを経験しているような老齢の馬を(選ぶとそういう馬は未熟なライダーを)助けてくれたりだとかするので、そういうことはあります。
Q:以前にサラブレッドは骨折すると致命的という話を耳にしたことがあるのですが、現在はどうなのでしょうか?
今は非常に獣医学も進歩してますので、骨折=安楽死とかそういうことに必ずしも結びつく訳ではありません。非常にピンニングですとか、いろいろプレートを入れたりですとか、人の外科手術と同じですね。非常に進歩していますので、十分骨折した後も復活する馬もたくさんいます。
パート②-5 サラブレッドと温血種
Q:馬の種類によって向いている競技があるのでしょうか?
そうですね。馬術の中でもやはりサラブレッドに向いてる種目、向いてない種目ってありまして。どちらかというと馬場馬術的なものはサラブレッドというよりも温血種と呼ばれるウォームブラッド系、海外ではたくさん生産している(品種な)んですけれども。
そういう温血種的なのが馬場馬術だとか、あと高い障害を跳ぶのとかには向いていたりしますけれども、どちらかというとスピードがかかるクロスカントリーがある総合馬術だとか、そういうのに関してはサラブレッドが非常に適している。オリンピックなんかもサラブレッドが出てきたりする場合もあります。
Q:温血種にはどのような特徴があるのでしょうか?
そうですね。やはり骨が丈夫であって、筋肉が柔らかかったりだとか。あと性格的に非常に穏やかなの(=馬)が多いので人との親和性というか、そういうところに長けているのと。
またやはり競馬も非常に血統のスポーツだっていうんですけれども馬術も然りで、やはり高い障害を跳べるような、飛越能力があるお父さんからまたはお母さんから生まれた子どもたちっていうのは、やはり同じように障害馬術で活躍したりですとか、優雅な動きを見せる馬場馬術のトップの馬の子どもたちは、またやはり馬場馬術系で活躍したりとか。やはりそういう血統っていうのも非常に重視されることもあります。
主にはドイツですとか、フランスですとか、オランダですとか、その辺では馬術用の温血種(ウォームブラッド)が非常にたくさん生産されて。またいろんな良血と交配させて、さらにパフォーマンスの高い、能力を持った仔馬たちを育てるっていうことに、非常に国ぐるみで取り組んでいると思います。
馬の「セカンドキャリア」
Q:馬は「体力的なピーク」を何歳くらいで迎えるのでしょうか?
大体やはり10歳から15歳くらいが一番のピークじゃないかなと思います。まあもちろん個体差があるので、もう8歳くらいからピークを迎える馬もいれば、また18歳くらいでも元気な馬もいます。

競馬の場合はもうちょっと(ピークは)早いですけど。ただ競馬の方も現在では、それこそ前は3歳、4歳、5歳くらいでもう引退って言ってましたけど、今7歳、8歳、9歳でも頑張っている競走馬はいっぱいいますので、その意味では全てが高寿命化、長寿化していますね。
Q:だから競馬の後に馬術でも活躍できる訳ですね?
そうですね。特に今日本にはたくさん良い競争馬がいるんで、サラブレッドがいますから。その馬の今「リトレーニング」と言って、今まで競馬の世界でとにかく速く走れと調教されていたものを、今度は誰が乗ってもゆっくり正確に、ライダーの指示に従って動くんだよと。障害を、例えば障害を跳ぶんだよとかっていう、再調教することを「リトレーニング」っていうんですけれども。
非常に最近リトレーニングが盛んになって、競馬で活躍した馬が今、馬術競技で活躍しているっていう例が非常に多くなってきています。
Q:15~20歳の馬というと人間で考えると相当高齢に感じますが?
うーんそうですね。まあ人間も長寿になってますけど、馬も非常に長寿になってます。私が子どもの頃は20歳以上の馬なんてあまり見かけなかったくらい(でしたが)、現在では見かけないどころか本当に現役選手、現役(の馬)として競技馬としてまだまだ活躍している馬もいます。
やはり環境だとか、飼料、餌ですね。飼養環境が非常に良くなったりですとか。そんなことで馬も非常に長寿にはなっています。
