アメフト観るなら「攻守のじゃんけん」を見る!(その6:後編)

アメフト観るなら「攻守のじゃんけん」を見る!(その6:後編)

YouTubeチャンネルにアップロードした「アメフト観るなら、攻守のじゃんけんを見る!」⑥ー4と5の詳細版「オフェンス(OF)とディフェンス(DF)の駆け引き(後編)」です。

アメリカンフットボール編⑤では、スペシャルチームのプレーについて教えていただきました。

アメリカンフットボール編⑥では、攻守の駆け引きについて、今回も桜美林大学アメリカンフットボール部「スリーネイルズクラウンズ」前監督の関口頼久さんに伺いました。

パート⑥−4 攻守の駆け引き④(ダウン&ディスタンス)

オフェンスが何を考えながらどんなプレーを出してるかとということについて少し話をしたいと思います。

状況によるプレー選択 1stダウン10ヤード

1stダウン10はやはり一番最初の攻撃なので特段リスクのあるプレーはしたくないなぁと。やっぱり自分たちが一番自信を持ってるランプレーから入っていくっていうのが一番オーソドックスな考え方だと思います。

特に試合の初めの方だとうちのオフェンスライン(OL)、それから相手のディフェンスライン(DL)、ラインバッカー(LB)たちに対してどのくらいいけるのかなということを見る上でも、自分たちが自信を持っているランプレーを出していくことは結構重要で、そういった意味ではそのチームの得意不得意もあるし。

それまでの試合で相手チームが、いやいやこのチームギャップスキームに対しては強いんだけどゾーンプレーに対しては結構走られてるよねみたいな、相手チームのビデオを見て考えてじゃあこのプレーを1stダウンのプレーでやってみようということが比較的あるんじゃないでしょうか。

状況によるプレー選択 2ndダウン

2ndダウンで唯一気にするのは2ndダウンで長い距離が残った時。やはり2ndダウンは如何に3rdダウンで1stダウンを取りやすいプレー、つまりマネージしやすい3rdダウンを作るかということが一番重要な2ndダウンの役割だと思うんですね。でそうすると、マネージしやすい3rdダウンっていうと、やはり3rdダウン3ヤード、4ヤード、5ヤード以下っていうのが1個ポイントになると思うんですけど。2ndダウン10が残った時には、3rdダウン5を作るために少なくとも5ヤード稼がなきゃいけない、5ヤードどうやって稼ごうか。2ndダウンロングが残った時というのは比較的そのチームの特徴っていうのが出ます。

すごくいいランニングバック(RB)を持ってるチームはやっぱりここでもランプレーやります 5ヤード取れる可能性が高い。逆にいうと いやいやうちはクォーターバック(QB)と(ワイド)レシーバー(WR)がすごく相性もいいし、足が速くて(ボールを)取った後も結構プレー(に)期待できるのでじゃあ短いパスを投げますかと。そうするとじゃあ相手の2ndダウンロングはこういうDFの傾向がありますよといった中で、じゃここは確実に1対1になるから、こいつにとりあえず短いパス取らせてみようかと。

でタックルミス(が)1個あればロングゲインして1stダウン取ってくれるし、タックルミス(が)なかったにしても、成功率の高いパスを通してたらマネージメント自分たちがしやすい3rdダウンを作れるよねっていうことで。

2ndダウンロングに関しては大体そういった形でプレーを作っていくとっていうので2ndダウンロングは比較的そのチームのOFの特徴が出やすいダウンかなという風に思っています。こういったところをですね。どうやって上手く使っていくかっていうのは結構オフェンスコーディネーター(OC)の腕の見せ所で。

DFとしては逆にいうと3rdロングを常に作りたいわけですよね。そうすると2ndダウンロングをDFとしても3rdダウンロングを作るためにいい形で止めたいし。OFとしては3rdダウンで自分たちがマネージしやすい距離、3ヤード、4ヤード、5ヤード、もちろん1stダウン取れちゃうっていうのが一番いいんですけど。そういったマネージしやすい3rdダウンを作るために、如何に2ndダウンロングっていうのをうまくマネージメントしていくっていうのが一つのポイントになります。

状況によるプレー選択 3rdダウン&ロング

僕ら(3rdダウン)ロングって大体7ヤード以上かな、3rdダウンロングって呼んでるんですけど。3rdとっても長い距離(が)残ればやっぱりWR(を)たくさん入れてパスのフォーメーションですよね。相手が3rdダウンロング(が)残った時はいやいやここニッケルバック(NB)入れて、必ず(パスで)来ますよ、あいつらはっていうと。

どこに一番ミスマッチ(が)できるかなとか、どのスキームが、カバーの考え方ですね。手薄になるのかということを考えながら。こういったところに こういったところにWR入れてこうよみたいなことをですね ちょっと考えてみたりとか。そんなことを常に考えながら3rdダウンロングのプレーは考えてます。

3rdダウンロングはやっぱりパスを投げるっていう可能性が非常に高いわけですね。インターセプトされたくないんだと、OFとして。じゃあどういう風にしていくかっていうともしこの試合が残り5分2タッチダウン(TD)差。まあ1本取られても次のOF(で)もう1回1stダウン(を)2~3回更新すればもう試合終わっちゃうよねっていうところだったら3rdダウン10の時にあえてランプレーしたりします。何でかっていうとこの人たち絶対パス来るよねって思いながらやってるので、実はランプレーの予想をしてないのでランプレーに弱かったりすることもあるし。

あとは3rdダウンロングの、相手がパスだとわかってるときにみすみすパスを投げてインターセプトされるという危険を避けるためにも、この攻撃権はもう捨てて次(に)攻撃権が回ってきた時にもう一回じっくりドライブしようよということも考えたりするので、3rdダウンロングだからといって必ずパスがある訳じゃなくて、例えばそのフィールドポジションとか得点差とか残り時間によって実はランやってみたりとか。スクリーンとかドローとかですね。そういったちょっとリスクの少ないパスプレーをやってみたりとかっていうこともOFの考え方の一つでありますね。

全ては残り時間と得点差と、元々この人たちが持ってる人の強さですね、どういった選手がいるかによって考え方(は)変わってくると思うんですけど、一方的にある程度勝ってる試合だったらこのシチュエーションであまりリスクを背負うことは大体しないと思いますね

状況によるプレー選択 3rdダウン5ヤード

まあまあマネージしやすいよねっていう3rdダウン5ヤード。このくらいになってくるとランプレーがある可能性も考えてタイトエンド(TE)を1人入れましょうとか。いやいやうちにはTEやっぱりいいTEが2人いるからこういったことで、DFにランかパスかわからないようなフォーメーション(を)組んでいきましょうかとか。こういった考え方もあるし。

状況によるプレー選択 3rdダウン&ショート

3rdダウンショートは大体1ヤードとか2ヤードとかなので、OFとしては確実にランプレーで1ヤード2ヤードを取って、次の1stダウン取りたいなというのが最初に考えることだと思います。

で例えば3rdダウンショートでもそうなんですけど、ゴール前。ゴール前1ヤードとかみたい時にはさらにこのWR下げてTE3人にしたりするんですね。もしくはもう1人RB連れてきて、これ3バックって僕ら言うんですけど、こういった形でとにかく中の人数を増やして、よりブロッカーの数を増やして数で対抗しようというのが一個OFの考え方です。

そうするとDFとしては当たり前なんですけど、大きい選手をいっぱい並べますよねこうやって、こんな形でDFを組んでくると。これは俗にいう「6-2」(シックス・ツー)って言いますね。6人が1列目にいて後ろに(2人が)2列目、基本的にみんなマンツーマンで守ってますよ、後ろは。ゴール前なんかでよくあります。

もしくは全部のギャップにもう(DFが)いて、こういったところで全部のギャップを埋めましょうというDFをDFもやったりするんですけど。OFとしては自分たちが一番得意としているプレーを必ずやるっていうのが基本セオリーです。

相手もこのシチュエーションだとこのチーム(は)これやってくるよねっていうのは大体わかってるので、自分たちがどういうOFをするかもまあバレてもいるけど1ヤード2ヤードのことなので、まあここはそれでも絶対勝とうということをまず考えるのが1個と、必ずOFは自分たちが得意なプレーの裏のプレーを持っています。

じゃあ仮にですね、こういった形でショートヤード、(DFが)6-2で守ってきますよと。この(OFの)チームが仮に「パワー」が絶対得意だとっていうと。こういう風にブロックして、この人がここに来た人をブロックして、この人はこの人を外にキックアウトして、ここを走らせると。これが得意ですよ。とそうするとどんな裏プレー(を)作っとこうかなっていうと、QBがこの選手(RB)に渡すふりをして、実は渡さないで(右サイドのWRに)パスと。

これで何が起こるかっていうと、10回に1回こいつらこの同じ動きの中からパス投げてくるなっていうことがあると、この人たちは当たり前ですけど思いっきり動けなくなるんですね。常にパスのことも頭に入れながらランも守らなきゃいけないと。ここから先はほぼ心理戦なんですけども。

ランかなぁパスかなぁっていう、こうちょうど50:50(フィフティ・フィフティ)でいると、なかなか動きが(決められず)なかなか縦に上がれないので、じゃあその隙を突いて最初のランプレーで1stダウンを簡単に取っちゃいましょう、みたいなことも実は結構あるんですよね。

だから3rdダウンショートでも必ずシーズンに何回かはパスを投げます。なんでかって言うとパス投げておかないと、常に3rdダウンはもうランしかないと(DFに)思われるとランだけ守れば(いいとなれば)やっぱりDFが有利なので。だからそこはOCだけじゃなくてヘッドコーチ(HC)も含めて1回くらいパス投げておこうかみたいな判断っていうのは、常に3rdダウンショート 4thダウンショート、ゴール前では常に起こってくると。

それから選手ですね。やっぱり3rdダウンを止めたいので、パスもちゃんと見ておかなきゃダメだよって言っても止めたい選手は突っ込んできますよ (選手は)ビッグプレーしたいので。ああこの選手はやっぱりそういう役割が与えられてもとにかくラン止めにくるよなってわかってたら、あえて狙い撃ちします そこは。

どういう「じゃんけん」をしていこうかなっていうのは、いろんなカードを持っていて、先に出すのか ジョーカーを、後に取っておくのか、あるぞあるぞと見せかけて使わないのか、みたいなことっていうのは、そこはもう常に心理戦で頭使いながら戦っているところですね。

パート⑥-5 攻守の駆け引き⑤(フィールドポジション)

状況によるプレー選択 自陣12ヤード付近

ボールオンが例えば(自陣)12ヤードとか、この辺からスタートしようというと。まず考えたいのはここら辺でミスして相手にボールを渡すとすぐ相手はタッチダウン(TD)になるなというので、恐らく多くのコーチはですね まずは15ヤード20ヤード、しっかり脱出したいなというマインドになると思います。つまりこの辺自陣深いところではやっぱり手堅いプレーをするんですね。

例えばすごく優秀な(ワイド)レシーバー(WR)とクォーターバック(QB)がいるのであれば、この2人が一番得意としているパスプレー。もしくはエースって言われるランニングバック(RB)がいるのであれば得意なランプレーですね、誰の後ろを走らせようかとか。だからこの辺では一番自信があるプレーをやってくるっていうのがほとんどだと思います。

状況によるプレー選択 自陣35ヤード付近

で今度20ヤードを脱して自陣ですね。この辺っていうのは比較的いろんなことにチャレンジしやすいシチュエーションなので。例えばボールオン(自陣)35ヤードになると次は相手陣ですよね。

その次にフィールゴール(FG)レンジに入りたい、その次にタッチダウン(TD)取りたいと、だんだん欲が変わってくるので、まずは敵陣にボールを進めようと思うとこの50ヤードから残り例えば20ヤードなのか、25ヤードなのか 10ヤードなのかをどうやって1stダウンを重ねながら進んでいくかということを考えると思います。

この辺で勝負したいプレー、例えば初めてこの試合で見せるプレーとかですね。今まで相手がスカウティングしてないプレーを仮にやりたいと思うのであれば、この辺で餌を撒いておいて ああなるほどこういうプレーがあるんだ、っていうのをDFに理解させておき、敵陣に入ったらそのプレーの裏プレーですね。そのランプレーをフェイクした長いパスとか、っていった事をこういったところで種まきをするってことは結構あると思います。

状況によるプレー選択 敵陣45ヤード付近

やっぱりボールが敵陣に入ると、まず次はFGを蹴るところ、(敵陣)35ヤード以内 30ヤード以内に如何にボールを進めるかっていうことになるんですけども。この辺はですね、やっぱり一番自由にプレーを選択できるというところになります。それからここから攻めていくと、だんだん奥行きがなくなるんですよね。

奥行きがなくなるとDFがどんどん有利になっていくので、なるべくDFに後ろを意識させて、その手前の空間で勝負しようということになってくるので、敵陣に入って最初の1stダウンっていうのは、ロングパスとか、長い距離を取りたいなぁっていうプレーをやることもあるかなぁと思います。

状況によるプレー選択 敵陣30ヤード付近

でその次に入ってくるのはFGレンジですね。大体学生でも社会人でも35ヤード、30ヤード以上に入ってきたらそこはFG確実に4thダウンなら3点(を狙って)蹴りますよというところになると思います。

ここでまず気を付けるっていうのはロス(後退)しないことです。QBサックされたりして5ヤード 10ヤードロスしちゃうと今度FGレンジから出ちゃう。そうすると最悪4thダウンでここまで進んだのにパント蹴らなきゃいけないと。

(敵陣)30ヤード近辺 この辺のプレーっていうのはこの辺のプレーと比較的似ててですね、安全なプレー自分たちが自信を持っているプレーをやることが多いです。なのでここではあまり大胆な勝負をするというよりもロスが少ない、パスでも長い間QBがボールを持つようなプレーよりもなるべく早く放せるようなプレーですね。こういったところを選択してくることが多いと思います。

状況によるプレー選択 レッドゾーン

20ヤード(に)入ってくるとDFにとってみると守らなきゃいけない後ろのヤードがどんどん狭くなるんですね。そうすると守らなきゃいけないエリアが狭くなればなるほどDFの方が有利。

そうするとOFとしては今まで縦にストレッチしていたプレーも横にストレッチしなきゃいけないんですね。(敵陣)20ヤードに入ってくると同じパスパターンでもエンドゾーンの奥まで行っちゃうので、じゃあ奥までいく選手(が走るコース)を少し変えてみようとかですね。

大体レッドゾーン(敵陣)20ヤード(に)入ったところの別のパスパッケージっていうのをどのチームも持っていることが多いです。それに応じて15ヤードだとこのパス投げるとかですね。10ヤードのこっち(の)ハッシュだったらこのパス投げるとか、ゴール前4ヤードからだったらこのパス投げるとかいうのは大体決めていることが多いです。

状況によるプレー選択 相手ゴールライン目前

ゴールラインですね。ゴールラインに行くとこの辺はもういかに少ないヤードを持ち込むかということになるので、前に大きい選手をたくさん並べて、その選手を使って、一番いいRBがどういった形でボールを持ち込むかというところが基本的な発想になると思います。ただしこの人がボールを持つっていうのが決まってると当たり前ですけどDFも止めやすくなるので、そのフェイクをしたですね、パスをWRに投げたりとかですね。

あとはもしくは単純に 明らかにこのコーナーバック(CB)に対してはうちのWRは絶対有利だぞと っていうことであれば、あえてこの1/3ですね。ここからこっち1/3(で)1対1のシチュエーションを作ってここで決まったパス(を投げます)。ただ中に入るんじゃなくてそこから外に出るとかですね。ディフェンスがなかなかつきにくいパスをあえてそこでしたりということもあるかと思います。

Q:ゴールライン前ではレシーバーが交差することが多いように感じるのですが?

交差することは多いです。なぜかというと、ゴール前ってマンツーマンが多いんですよね。ゾーンってやっぱり後ろに6人とか7人とか割かなきゃいけないので。そうすると自ずと前にいるのが4人とか5人とかなっちゃうじゃないですか。ランに弱いんですよ。

そうするとマンツーマンやろうって話になるんですよ、1対1でガチンコ状況でやりましょうっていうことになると。この選手たちがクロスすると絶対DFもどこかで交差しなきゃいけない もしくは受け渡ししなきゃいけない。そうするとどこかで一瞬DFとWRの間で距離ができる瞬間ができるんですね。でそのタイミングでQBがWRにボール(を)渡すということがあるので、そこを狙ってOFとしては短い時間だけど空いてるWRを作るということが可能になるのでクロスしたりとかするということですね。

状況によるプレー選択 ディフェンスの対応

じゃあそれに対してDFは何を考えているかっていうと、基本的には傾向から判断します。例えば50ヤード近辺の1stダウン10ではこのチームは何してくるだろう、っていうとじゃあまずそれを止めに行こうと。

OFも当然それはわかってる訳でDFはこのシチュエーションになると、このOFから見て右のランをやっぱり止めにくるよね、っていうことであればこの右のランのフェイクをしたパスをやっぱりWRに投げるとかですね。DFとしてはこの傾向が強い、このOCこのQBだと大体こういうプレーがこのフィールドポジション(で)多いよねっていうことに対して、じゃDFはこれをやろう、じゃその裏をOFとしてはさらに取ってやろうと。

勘に頼る部分もあるんですけどそれはよく英語でいうとエジュケイテッドゲス(Educated Guess)って言ったりするんですけど、過去の統計なんかを考えながらですね どうやってプレー、DFサインを決めていこうかというところで。戦ってるのは選手なんですけど実はサイドラインのコーチ達がそういった勝負を常にしていると、っていうのがアメリカンフットボールの一つの面白いところなのかなぁと思います。

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